ミリタリーNOW
艦艇/統合防空・ミサイル防衛

米海軍Flight III駆逐艦、2隻引き渡し SPY-6とAegis Baseline 10で何が変わった?

 
サンディエゴへ到着するFlight IIIアーレイ・バーク級駆逐艦USS Jack H. Lucas(DDG 125)の全体像

画像:U.S. Navy photo by Petty Officer 2nd Class Mikal Chapman/Commander, U.S. 3rd Fleet。DVIDS Photo ID 8089631、VIRIN 231025-N-SL036-2065、Public Domain。Flight III第1艦USS Jack H. Lucas(DDG 125)の船体全体を確認できる公式実写です。

米海軍は2026年8月28日、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の最新型「Flight III」について、2隻を引き渡し済みで、さらに23隻が契約済みまたは建造中だと明らかにしました。Flight IIIの中核は、新型レーダーAN/SPY-6(V)1とAegis Baseline 10です。ただし第1艦USS Jack H. Lucas(DDG 125)は現在も初期運用試験・評価(IOT&E)の最中であり、公開された能力説明と、実運用で検証中の段階を分けて見る必要があります。

2隻引き渡し済み、23隻が契約・建造中

米海軍水上部隊司令部の2026年8月28日付公式特集は、Flight III駆逐艦について「2隻を引き渡し済み、さらに23隻が契約済みまたは建造中」と説明しています。ここで重要なのは、引き渡しと就役は同じではないことです。

第1艦USS Jack H. Lucasは2023年10月7日に就役しました。一方、第2隻として数えられる将来のUSS Ted Stevens(DDG 128)は、NAVSEAによれば2025年12月29日に造船所から米海軍へ引き渡されましたが、2026年8月28日時点の公式記事では「就役が近い」段階です。したがって「Flight IIIが2隻とも実戦部隊で運用中」と読むのは正確ではありません。

Flight IIIの核心はSPY-6(V)1とAegis Baseline 10

Flight III最大の変更点は、AN/SPY-6(V)1 Air and Missile Defense Radar(AMDR)とAegis Baseline 10の組み合わせです。SPY-6(V)1はAESA、つまり多数の送受信素子を電子的に制御してビームを形成するフェーズドアレイ・レーダーで、Baseline 10はその大量のセンサー情報を処理し、航空機やミサイルへの対処を統合する戦闘システムです。

米海軍は、従来型より遠距離・短時間で複雑な目標を探知・追尾でき、航空防御と弾道ミサイル防衛(BMD)を同時に実施できると説明しています。ただし、具体的な探知距離や目標別の追尾性能、交戦成功率などは公開されていません。本記事では、米海軍が公表していない性能値を推定しません。

レーダー交換だけではない 電力は450Vから4160Vへ

SPY-6を搭載するため、Flight IIIは艦内インフラも大きく変更されています。米海軍の最新説明では、Flight IIAの450ボルト系統に対し、Flight IIIは4160ボルトの電力系統を採用しました。発電機も更新され、ガスタービン発電機は1基あたり4メガワットを発生するとされています。

冷却能力も増強され、空調設備と冷水(chilled water)の能力が拡大されました。高性能レーダーと戦闘システムは大量の電力を消費するだけでなく熱も発生するため、センサーだけを載せ替えるのでは成立しません。Flight IIIは電力・冷却・船体構造まで含めた改設計です。

排水量は9500トン超 船体にも変更

米海軍はFlight IIIの排水量を9500トン超、Flight IIAを約9300トンと説明しています。増加した装備重量を支えるため船体も変更されています。外観は従来のアーレイ・バーク級を踏襲していますが、内部ではレーダー、戦闘システム、電源、冷却、構造の組み合わせが大きく変わっています。

このため、Flight IIIを単純に「古いバーク級へ新型レーダーを付けただけ」と理解するのは適切ではありません。一方で、船型そのものはDDG 51級の発展型であり、全く別の新艦級になったわけでもありません。

第1艦Jack H. LucasはまだIOT&E中

最新資料で最も重要な注意点は、USS Jack H. Lucasが2026年8月28日時点でInitial Operational Test and Evaluation(IOT&E、初期運用試験・評価)を進めていることです。米海軍は、船体・機械・電気系統と戦闘システムが要求された能力を発揮できるか検証していると説明し、今後13か月にわたり集中的な航海試験を予定しています。

同艦は2026年8月6~13日のPacific Dragon 2026にも参加しましたが、演習参加だけを根拠に「Flight IIIの全能力が実戦配備基準を完全に満たした」と断定することはできません。米海軍自身がIOT&E継続中と明記しているためです。

USS Ted Stevensは引き渡し済み、就役前

将来のUSS Ted Stevens(DDG 128)は2025年12月29日に米海軍へ引き渡されました。NAVSEAは、引き渡し前に推進、戦闘システム、通信、航法などの海上・岸壁試験を行ったと説明しています。

米海軍は2026年8月28日、将来のUSS Ted Stevensを10月3日にアラスカ州ホイッティアで就役させる予定だと発表しました。したがって「2隻引き渡し」は事実ですが、2026年9月6日時点でDDG 128はまだ就役前です。引き渡し、就役、運用試験の段階を分けて見る必要があります。

Flight IIIで確実に変わったこと

公開情報から確実に言えるのは、Flight IIIがSPY-6(V)1とAegis Baseline 10を中核に、統合防空・ミサイル防衛能力を強化する設計であり、そのために艦内電力、発電、冷却、構造まで手を入れたという点です。また、米海軍の調達は第1艦だけの実験で終わらず、複数の造船所で多数の艦を継続建造する段階に入っています。

一方、探知距離、同時追尾数、極超音速兵器への具体的な交戦性能など、公開されていない数値を外部から断定することはできません。さらに第1艦がIOT&E中である以上、メーカーや海軍の能力表現と、今後の運用試験で確認される結果は分けて追う必要があります。

一次資料・参考資料

2026年9月6日時点の米海軍、NAVSEA、DVIDSの一次資料をもとに整理しています。米海軍による能力評価は公式発表として紹介し、未公表の探知距離、同時追尾数、交戦成功率、具体的な作戦計画は推定していません。USS Jack H. LucasがIOT&E中であることも踏まえ、引き渡し・就役・運用試験の段階を区別しています。