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P-1とニムロッドMRA4、なぜ明暗が分かれた? 国産4発哨戒機と英国の34億ポンド計画

 
海上自衛隊の川崎P-1哨戒機

画像:Alan Wilson / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0

日本のP-1と英国のニムロッドMRA4には、不思議な共通点があります。どちらも4発ジェットの海上哨戒機で、旧型機を置き換える国家的な大型計画でした。しかしP-1は2013年から量産配備が続き、英国のMRA4は約34億ポンドを投じながら1機も実戦配備されないまま中止されました。単純に「日本の技術が優秀で英国が失敗した」と見るだけでは、この差の本質は見えてきません。

P-1は「専用哨戒機を新しく作る」計画だった

P-1は海上自衛隊P-3Cの後継として、防衛省が2001年度から開発を開始しました。川崎重工は同年11月、次期固定翼哨戒機XP-1と次期輸送機XC-2の2機種同時開発の主担当企業に指名されています。

XP-1試作1号機は2007年9月に初飛行。2008年に試作機を防衛省へ納入し、各種試験を経て2013年3月に開発を完了、同月26日に量産初号機が納入されました。

つまりP-1は、古いP-3Cの胴体を使い続けて大改造した機体ではありません。海上哨戒という任務を前提に、新しい機体、エンジン、飛行制御、センサーをまとめて設計した航空機です。

国産F7エンジンを4基搭載

海上自衛隊の公式仕様では、P-1はF7-IHI-10ターボファンを4基搭載します。巡航速度は450ノット、機体は全長38メートル、全幅35.4メートル、離陸重量は約80トンです。

川崎重工は量産初号機納入時、P-1には新規開発の国産エンジンに加え、実用機として世界初のフライ・バイ・ライト(FBL)飛行制御、新しい音響システム、レーダーを採用したと説明しました。

4発という構成だけを見れば古典的ですが、内部はP-3Cの単なるジェット化ではありません。対潜哨戒を低高度・長時間で行う専用機として、新世代のシステムを一つの機体へ統合しています。

英国MRA4は「古いニムロッドをほぼ作り直す」計画だった

一方のニムロッドMRA4は、RAFが運用していたニムロッドMR2を更新する計画として1996年に契約されました。特徴は、新造機ではなく既存ニムロッドの胴体を再利用しながら、新しい翼、エンジン、着陸装置、電子機器などを組み合わせる方式だったことです。

英国議会資料では、MRA4の「ほとんど」は新しく、翼、エンジン、着陸装置などが新造された一方、胴体は既存機を使ったと説明されています。つまり「古い機体を少し改修」でも「完全新規設計」でもない、非常に大規模な再構築でした。

2003年配備予定が2012年へ

MRA4の契約時、運用開始は2003年が想定されていました。しかし技術・資源問題が相次ぎ、1999年には2005年へ再設定。その後も遅延し、2010年時点では初期作戦能力の達成が2012年10月と見込まれていました。

英国議会は、MRA4の遅延について、設計・開発と生産を同時並行で進めたことが問題を悪化させたと指摘しています。飛行試験で設計変更が必要になると、すでに生産へ入った機体にも修正を戻さなければなりません。

新しい翼は、予想以上の安定性問題を生んだ

MRA4では新しい大きな翼と高出力エンジンを採用しましたが、飛行試験でピッチ方向の不安定性が予想以上に大きいことが分かりました。当初設けていたSpeed Trim Systemだけでは足りず、より高度な安定増強システムが必要になりました。

英国防委員会は、こうした技術問題がコスト増と遅延につながったと記録しています。重要なのは、問題が「古い胴体だから一つの部品が壊れた」といった単純な話ではなく、新しい翼・尾翼・エンジンを含む大規模な再設計全体の統合で発生していたことです。

21機の計画が9機まで減った

コストが上昇する中、英国はMRA4の調達数を削減しました。当初21機だった計画は、最終的に9機まで縮小されます。

英国会計検査院(NAO)は、機数削減によってMRA4の1機当たりコストが当初想定の3倍になったと指摘しました。大型開発では「高いから機数を減らす」と、一見支出を抑えられそうに見えます。しかし開発費は消えないため、残った1機に配分される固定費が増え、単価はさらに上がります。

約34億ポンド使った後に中止

英国政府の議会答弁では、2010年6月までのMRA4調達費は約34億ポンドでした。ところが同年10月のStrategic Defence and Security Reviewで、英国政府はMRA4を実戦配備しないことを決定します。

公共会計委員会は、すでに34億ポンドを使っていたにもかかわらず防衛力として便益を得られなかったと厳しく批判しました。一方、政府は運用を始めなければ、その後10年間で約19~20億ポンドの支援・運用コストを節約できると説明しました。

つまり中止判断は「ここまで使った34億ポンドを取り戻す」ものではなく、「さらに費用を投入して9機を運用するか、それとも損失を確定させて将来支出を止めるか」という判断でした。

完成間近だったのに、なぜ全部解体したのか

英国政府は9機を保管するのではなく、再利用できる装備を回収したうえで解体することを選びました。議会答弁によれば、政府は複数案を検討し、9機を処分する方法が最も費用対効果に優れると判断したとしています。

中止時点で、9機の量産機のうち実際に飛行したのは2機だけでした。PA04は16回、PA05は2回飛行していましたが、英国防省はまだ機体設計を正式に審査してRAF運用へ移す段階には達していませんでした。

「完成した9機を突然壊した」というイメージより、「一部は飛行していたが、全9機を実用部隊へ引き渡せる状態ではなかった」と理解する方が正確です。

P-1は順調だったのか

P-1にも開発中・配備後の技術課題がまったくなかったわけではありません。航空機の大型開発では、試験や運用で不具合を洗い出して改修するのが通常です。

それでもP-1は2007年の初飛行から試験を重ね、2013年に量産初号機を納入し、その後も調達が続きました。現在の防衛力整備計画でも、2023~2027年度にP-1を19機整備する計画が示されています。

少なくとも「開発費を投入したが部隊運用へ一度も移れなかったMRA4」と、「量産・部隊運用を継続しているP-1」では、計画成果に明確な差があります。

本当の教訓は「新造か改造か」だけではない

P-1とMRA4の差を「日本は完全新造だから成功、英国は中古胴体を使ったから失敗」とだけ説明するのも単純化しすぎです。

MRA4では、固定価格契約の問題、技術・人員不足、設計と生産の重複、機数削減、飛行試験で見つかった新たな問題、そして英国政府全体の厳しい財政事情が重なりました。最終的な中止は純粋な技術判定だけではなく、将来の維持費を含めた防衛予算全体の優先順位で決まっています。

P-1の成功を考える時も、機体性能だけでなく、試作機を先に飛ばして試験し、量産へつなげられた開発プロセスを見る必要があります。

まとめ

P-1は新しい機体と国産F7エンジン、FBL、センサーを組み合わせ、2007年初飛行、2013年量産納入へ進み、現在も整備が続いています。

ニムロッドMRA4は既存胴体へ新しい翼・エンジンなどを統合する大規模改造として始まり、技術問題と計画管理の難しさから2003年予定の運用開始が2012年へ遅れ、21機から9機へ縮小。約34億ポンドを投じた段階で中止されました。

両者の明暗を分けたのは4発ジェットという外見ではなく、開発方式、試験と生産の進め方、機数削減、技術リスク、そして最後まで計画を支えられる予算構造でした。

参考資料

公開資料をもとに開発計画を比較しています。両機の「成功/失敗」を国の技術力だけで単純化せず、調達制度・技術リスク・予算判断を分けて記述しています。

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