F-35B、なぜ垂直に着陸できる? リフトファンと可動ノズルの仕組み
画像:滑走路上空でホバリングするF-35B(フロリダ州エグリン空軍基地、2013年10月24日)/U.S. Air Force photo by Samuel King Jr. / Public Domain
F-35Bは、ステルス戦闘機でありながら短い滑走で離陸し、垂直に着陸できるSTOVL型です。秘密は「エンジンの噴射を下へ向ける」だけではありません。機体前方のリフトファン、後方の可動ノズル、左右のロールポストを一体で制御し、機体を複数の力で支えます。
前と後の2か所で機体を持ち上げる
F-35Bの垂直飛行を支えるRolls-Royce LiftSystemは、主にLiftFan、ドライブシャフトとクラッチ、3 Bearing Swivel Module(3BSM)、左右のRoll Postsで構成されます。
機体前方では、主エンジンから取り出した動力をドライブシャフトでリフトファンへ送り、下向きの推力を発生させます。後方では3BSMと呼ばれる可動式のジェットパイプが主エンジンの推力を下向きへ偏向します。前後で機体を支えることで、単に尾部のジェットだけで立つ方式とは異なるバランスを作っています。
リフトファンは「別エンジン」ではない
機体背面の扉が開くと見える大きなファンがLiftFanです。これは独立したジェットエンジンではありません。Rolls-Royceによれば、主エンジンからクラッチとドライブシャフトを介して最大約2万9000軸馬力(約21,600kW)が伝えられ、50インチ径(約127cm)の2段反転ファンを回します。
LiftFanは機体前方で最大2万ポンド級(約9トン)の冷たい下向き推力を作ります。前方に大きな揚力源を置くことで、後方のエンジン推力との釣り合いを取れることがF-35Bの特徴です。
後ろのノズルが約90度向きを変える
機体後部の3BSMは、エンジン排気の向きを変える可動機構です。Rolls-Royceは、このモジュールが95度を約2.5秒で回転できると説明しています。NAVAIRも、3BSMがエンジン推力を下向きへ変え、F-35B特有の短距離離陸・垂直着陸を可能にする重要部品だとしています。
短距離離陸では推力の一部を下向きに使いながら前進し、翼が生む揚力も利用します。垂直着陸では速度を落とし、LiftFanと下向きになった後部推力を中心に機体重量を支えます。
左右方向はロールポストで姿勢を制御
前と後だけで支えても、機体が左右へ傾けば安定したホバリングはできません。そこでエンジンのバイパス流(ジェットエンジンの中で燃焼させずに周囲を素通りさせる空気の流れ。ここから分岐させた空気を使うため、追加の燃料を焚かずに済みます)の一部を左右のRoll Postsから噴出させ、ロール方向の姿勢制御に使います。
つまり垂直着陸時のF-35Bは、前方のLiftFan、後方の3BSM、左右のRoll Postsという複数の推力源を統合して姿勢を維持しています。パイロットがそれぞれを個別に手動操作してバランスを取るのではなく、飛行制御システムが統合して制御することが、この複雑な方式を実用化する重要な部分です。

なぜ普通に垂直離陸しないのか
F-35Bは垂直離陸そのものが技術的に不可能な機体ではありませんが、実戦運用では短距離離陸を活用するのが基本です。滑走して翼の揚力を使えば、機体を推力だけで持ち上げる場合より重量面の余裕を得やすく、燃料や兵装をより多く搭載した状態で発艦できます。
一方、着艦時は燃料を消費して機体が軽くなっているため、垂直着陸の利点を生かせます。英海軍などでは、翼の揚力も利用しながら前進速度を残して着艦するShipborne Rolling Vertical Landing(SRVL)も試験されています。
日本にとって重要な理由
日本はF-35Bの導入を進めています。防衛省の防衛力整備計画では、2023年度から2027年度までの整備規模としてF-35Bを25機とし、より長期の取得方針では短距離離陸・垂直着陸機能を持つ機体42機を取得する考えが示されています。
さらに防衛省は、護衛艦「かが」で2024年10月から11月にF-35Bの艦上運用試験を実施したことを公表しています。2026年2月には新田原基地でF-35B配備記念式典も行われました。STOVL能力は単なる航空ショー向けの特殊機能ではなく、長大な滑走路だけに依存せず、改修された艦艇や限られた飛行場から航空戦力を運用するための能力です。

まとめ
F-35Bが垂直に着陸できる理由は、エンジンノズルを下へ曲げるだけではありません。主エンジンの力で回す前方LiftFan、推力方向を変える後方3BSM、左右のRoll Postsを組み合わせ、飛行制御システムが一体で制御しています。
F-35Aとよく似た外見の中に、垂直飛行用の巨大な機械システムを収めながら、ステルス性と超音速性能を両立したことこそ、F-35Bの技術的な見どころです。
LiftFan・3BSM・Roll Postsという3つの装置は、それぞれ単体で見ればさほど珍しい発想ではありません。難しいのは、この3つを同時に、しかも人間の反応速度では追いつけない精度でバランスさせる制御にあります。F-35Aとほぼ同じ機体規模にこの仕組みを収めながらステルス形状と超音速性能を犠牲にしなかった点こそ、開発の難所だったと編集部は見ています。日本にとっての意味も同様で、「かが」を含む改修艦や新田原のような限られた飛行場からでも運用できる柔軟性は、広い滑走路を前提にしない防衛体制づくりに直結します。
参考資料
公開情報で確認できる機構と運用上の意味を一般向けに整理しています。飛行制御ソフトウェアや詳細な運用手順など、公開されていない情報は推測していません。
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